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1.日本の改新と凋落
日本の歴史では、社会状況の変化とともに、改革、復興、凋落は繰り返されてきました。改新は遠く遡れば大化の改新(645年)であり、近くに例をとると明治維新であり、戦後の改革でした。令和6年の今また、改新が求められています。
何れの時代も、従来の社会・経済システムを大改新して臨み、難局を切り抜けました。明治維新以降の国の興亡は次の通りです。
国の独立を脅かす危機→国民一丸となり国を興す→慢心して個人やグループの利益追求の社会構造になる+主として権力が世襲制になり人材が劣化する→国が衰退する。
というパターンを繰り返しています。それが77年周期となっています。
現在の日本も従来のシステム若干手直しするのでは乗り切ることができず、大改新する必要に迫られています。
2.77年周期の改新と凋落
明治維新から敗戦の凋落まで(1868~1945)の77年間
明治維新は改新であり、復古でした。欧米が「科学革命」、「産業革命」、「市民革命」をベースとする改革であったのに反し、日本は外圧に押されての改新でした。福澤諭吉たちはイギリスやアメリカ流の改革を主張したのに反し、公家の岩倉具視は王政復古(天皇による支配)を望み、長州勢は天皇を利用した中央集権体制を企みました。
福澤諭吉はアメリカを訪れたとき、大統領府で「独立宣言」を読みその一節に大変感動しました。「all men are created equal.」(すべての人は平等に造られている)。福澤諭吉は「門閥制度は親の仇でござる」とも述べています。「学問のすゝめ」も個人の市民としての目覚めを促したものです。
岩倉具視及び長州勢は謀略を用いて、まず西郷隆盛を西南戦争で滅ぼし(1877年)、明治十四年の変(1881年)では福澤諭吉や大隈重信一派を政府から追放しました。
その後、伊藤博文らは社会改革が遅れているプロイセン(ドイツ)の統治体制を真似ただけではなく、天皇の存在をより神格化させ「国体」という統治概念を作り上げ、1890年には「教育勅語」を発布し、「国民は天皇のために命を差し出す」という洗脳教育を行ない「富国強兵」の道に進んでいきました。遅ればせながらの帝国主義のスタートです。
福澤諭吉と大隈重信は夫々慶應義塾、早稲田大学を創立し人材育成に務まました。また、下野した福澤一門は財界において福澤山脈を形成し「民」による実業の興隆に寄与しまし、大隈は政治家の育成に貢献しました。
この様な軋轢があったにせよ、明治発足当初は官、民共にともに西欧に追い付くのに夢中で、実業家は起業家精神が旺盛で、天皇を支えた元老たちも世界のリアリティーを知っていました。短い期間で、日本は西欧に形なりに追い付く体になりました。
しかし、昭和初期になると、日清、日露戦争に勝った日本は慢心し、昭和初期になると、汚職や腐敗、癒着などが蔓延して、特に支配層の腐敗は深刻であり、財閥と政府、官僚、軍部の癒着、日本における利権構造が出来上がりました。また、天皇の下の直列的な支配構造なため、部門間のチェック機能が働かず、これが各権力の増大、腐敗、暴走を生む土壌となりました。不祥事が生じても天皇に任命権があり罷免できず、自浄作用が働きませんでした。
さらに深刻なのは人材の劣化で、昭和の初期においては、明治の元勲の子孫たちが権力の場につきましたが、いずれも実経験に乏しく視野が狭く、変化する世界情勢のなかでの国家として有効な戦略作成や問題解決力に欠けていました。
これは明治維新の制度設計の過ちであり、それが顕在化して、敗戦という日本の凋落を経験したのです。明治維新は1868年にスタート終戦は1945年で77年の期間でした。昭和初期は1929年の世界恐慌があり、日本においては自然災害や凶作が続き、庶民、特に農民は塗炭の苦しみを味わっていたのです。この様な社会現象を背景として、国家改革を求める二・二六事件が起きました。
陸大卒のエリート軍人や帝大卒のエリート官僚の中には、軍事独裁国家を樹立して、満州、中国を手中に収めて大国にならんとする勢力があり、宮中もこれに加担して、満州事変→支那事変→太平洋戦争へと向かい、敗戦を迎えたのです。
3. 敗戦から現在まで(1946年~2023年)の77年間
敗戦とともに民主主義、平和主義、財閥解体、農地解放など多くの改新がなされました。これも外圧による改新です。これらの改革の多くは二・二六事件の青年将校達が望んだものでもありました。
焼け野原の中で日本人は必死に頑張りました。産業界も企業家精神に溢れていました。その結果日本は高度成長を成し遂げ、敗戦当初GNPが世界の3%台であったのが11994年には17.9%まで達し世界の賞賛を浴びました。ところが何故か2022年には、日本のGNPは世界の4.2%にまでに凋落してしまったのです。(現在は円安でもっと低い)。おまけに国の借金は2024年6月末の「国の借金」は1311兆を超え、対GNP比でレバノンに次ぐワースト2である。その後も国の借金は増加の一途を歩んでます。戦時でもないのに戦時下の状況です。おまけに、その間日本は経済成長がほとんど無く、庶民の活は苦しい、世界でも稀な国になってしまいました。日本国民は疑問を抱かないのでしょうか。
こんな日本に誰がしたのか。日本人が無能なのか、勤勉でないのか。理由はどこにあるのか。
冒頭で述べた「明治維新以降の国の興亡は、国の独立を脅かす危機→国民一丸となり国を興す→慢心して個人やグループの利益追求の社会構造になる+主として権力が世襲制になり、人材が劣化する→国が衰退する」というパターンを繰り返しています。それが77年周期となっています。
日本の凋落の節目は1990年前後といえます。1989年11月にはベルリンの壁が崩壊し、1991年12月にはソビエト連邦が崩壊しました。東欧諸国では次々に共産党政府が倒されました。共産主義崩壊の主原因は中央集権的な「計画経済」というシステムが平時には非効率であったためです。市場経済や市民個々人の活性化によるメリットを充分享受できませんでした。
この時期から世界ではグローバリゼーションとIT革命が始まったのです。フィンランドを始め各国は教育改革に力を注ぎました。中国や韓国では1990年代初頭には都市部で小学校低学年から英語教育がスタートし、韓国ではIQよりもITといわれました。教育改革を行った国々ではその後経済成長を遂げました。
日本で教育改革が進まず、明治初頭に導入された古いプロイセン流の暗記型の教育が続き、安倍首相の時代には「教育勅語」の副読本化が閣議決定されたのです。最近こそ、小学生からの英語教育やプログラミング教育導入され、またアクティブラーニングなるものも導入されました。しかし、他の先進国に遅れること30年です。
4. 不思議な現象、優等生の没落
勤勉で優秀な国民を持ち、1990年代までの技術力、工業力の遺産を持ちながら、何故世界でも例を見ない停滞した国家になり下がったのでしょうか。さすがに羊の様に従順な国民もその原因に気づき始めているのではないでしょうか。日本の現状は偶然にもたらされたのでは無いのです。立派な家に住んでいると思っていたら、土台は白蟻に食い荒らされていて、家が揺らいでいるのです。
政府は教育には予算を投入しませんでした。例えば、グローバル人材を育成するための要である国際バカロレア推進のための予算は令和6年の報告では年間一億円です。スポーツ振興のためにはどれだけの税金を投入しているのでしょうか。エネルギー関連の補助金には12兆円もの税金を投入しています。温暖化対策に逆行する石油などの消費を促進するために、国民の不満を一時糊塗するために、莫大な税金を投入するのです。これが自民党の政治なのです。痛み止めしか出さない医者は名医ではありません。病気を悪化させるだけです。これでは財政は悪化します。本来は再生エネルギー構築のために税金を投入すべきなのです。
自民党政治では、企業や団体から金を貰い、彼らのために税金を使います。またその金の力で各種の選挙対策を行い、当選するのです。この様なことを続けていては国が破綻します。いや、もう破綻しています。
現在の日本の様な社会構造をレントシーキング(レントとは利潤、シーキングとは追及)社会といいます。社会全体の利益を考えず、個人や特定のグループの利益のみを追求する社会です。この様な国では無駄な出費が嵩み必ず財政が赤字になります。
5. 戦前77年間、戦後77年間の改革→成長→凋落の類似点
戦前と戦後の改革、成長、凋落お原因は驚くほど類似しています。
しかし今後の77年間は復興の道を辿れるのでしょうか。明治維新や戦後のときと決定的に違うものがあります。それは、若い人が気概を持っていないということです。復興の軸になるものが失われてしまっているのです。
6.次の77年(2024年~2100年)に向かう処方箋
従来の社会システムの修正では間に合わない。パラダイムチェンジが必要と思います。
次の77年間に向かって、今こそ令和の大改新を断行しなければならない。日本にとっては最後のチャンスだと思います。
改新は現状を修正する程度では間に合わず、明治維新の大政奉還や戦後の農地解放や財閥解散、民主主義の導入の様に、抜本的な改新が必要のはずです。
日本没落の原因は次の4項目です
- 子育て・教育改革の失敗
- 人材の劣化
- 政治家の腐敗
- レントシーキング社会の形成
これらを踏まえて、令和の改新案を提言します。
令和の改新案
a. お金の流れの改変、格差の解消
改新を行うためにはその資金を確保しなければ、絵に描いた餅に過ぎません。
また、格差・階層の固定化を防ぐことが社会発展の原動力です。滞留している富を循環させることが必要です。
不労所得にはより適切な税金を課す。例えば、株式投資による利益(配当、譲渡益)は通常の所得と合算する。所得の少ない人には減税となるが、資産家には増税となる。相続税率を高める。逆に、シニアが働いて年金が減らされる様な政策は是正する。ふるさと納税の返戻金を廃止。専業主婦の扶養控除の廃止。企業の内部留保の一定比率以上に対して課税、その他。
b. 共和、共存、共栄、共恵主義
人類の進化は共恵力と課題解決能力の伸長であり、これは前頭葉の機能です。人類は前頭葉が発達して他の類人より優れてきました。競争は必要ですが、戦争による解決は強力に抑止すべきです。
現在においても流動化する国際社会を乗り切るために、共和、共存、共栄、共恵の方針を貫き、連携する仲間を増やす。これが最大のパワーとなります。
戦争を回避する努力は軍備を拡張する努力に勝ります。戦争を回避するためには、経済力と国際法を守る価値観の共有に重点を置くべきです。例えば、日本はウクライナをサポートするポーズを取りながら、ロシアの天然ガスを爆買するのは、業界に対する配慮です。代替する供給源はあります。
c. 子育て・教育改革
人に対する正しい投資は、どの様な投資よりも将来のリターンが大きいのです。しかし将来への投資は政治家の自分の票には直接繋がらないので、日本では戦後長いことおろそかにされてきました。特に乳幼児のときのケアは大切で、日本版ネイボラを充実させ、子育ての充実を図るべきです。教育には多様性が肝要であるのに反し、日本では古めかしい明治初頭に導入されたプロイセン式の教育が未だに主流です。政府は「学習指導要領」によってがんじがらめに教育を縛り付けています。教育に自由度が無く、変容する世界に対応できる人材育成の阻害要因となっています。フィンランドにおける教育の改革も権限移譲から始まりました。
d. 地方分権、地方活性化、都市集中の緩和
少子化対策においても、災害に対するリジリエンスの強化の観点から言っても、一部の都市に人口が密集することは好ましくありません。住居費が高騰し、狭い場所しか確保できず、家族を増やすことが困難なります。その反面地方は過疎が進み衰退しています。しかしそこには豊かな自然の恵み、子育て環境があります。都市化の進んだ国はどこでも人口が減少しています。地方の活性化は本腰を入れて進めるべきです。
e. シニア層の活性化、農業の支援
一概にシニアと言っても能力においては様々です。それぞれの能力に応じてシニア層を活性化すべきです。多くの高齢者にとっては都心に留まる必要性は無く、地方に移住して、食料とエネルギーの自給自走・地産地消の生活を送るべきです。高齢者が地方に移住すえば、都心の不動産価格も低くなり、若い人がより広い住居を安価で獲得することができます。そうすれば少子化対策にもなります。この様な世代間の人口の地域間循環も行うべきです。(「結いとぴあ」https://uitopia.net/ )
f. 異次元の少子化対策
少子化は日本滅亡の確かなサインです。戦争により滅びることはないでしょうが、少子化に歯止めを掛けなければ、日本は確実に消滅します。ですから、軍備予算を倍増するのではなくて、真の異次元の少子化対策を講じるべきです。地方の活性化、都心に住む高齢者の地方移住もその対策になりますが、子どもを社会全体で育てるポリシーが大切です。例えば、出産費用の全額公費負担、日本版ネイボラによる子育て支援、子ども一人当たりの支援金増額、教育費の無償化など。軍事費倍増を取り止め、異次元の少子化対策に税金を使うことがソリューションです。
g. 防災省を設け、その下に自衛庁、海上保安庁、消防庁を置く
日本においては大規模自然災害は戦争災害よりも発生の確率が高いのです。また、戦争を放棄している日本としては、自ら戦争を仕掛けることはあり得ず、攻めて来られる場合もこれは災害の一つです。防災、自衛に際して、資源を有効かつ迅速に行使するためには、自衛と消防、海上保安などの活動、装備を総括して立案・運営ができる上部組織である「防災省」を設立すべきであり、従来の防衛省は防衛庁としてまた、総務省管轄の消防庁、国交省管轄の海上保安庁は防災省の管轄とする。縦割りにより災害時にちぐはぐな対応にならない様に事前に対策する。防災に対する有効化、効率化を図るべきです。
h.防衛費予算の縮小、ハリネズミに徹する
ウクライナにおける戦争を見ても、ドニエプル川の橋を壊したら、重火器に移動ができず、東へルソンのロシア軍は西へルソンに攻め込めず、逆もまた然りです。第二次大戦でも同じ光景が展開されました。まして日本は広大な海に囲まれています。海は自然の要害です。ですから、防戦には極めて有利です。上陸して来る敵をせん滅すればいいのです。ミサイルで敵艦を沈没させドローンで揚陸艇を破壊すれば良いのです。ですから、高額な兵器は要らないのです。また、台湾有事は日本の有事ではありません。米国に不都合なのでしょう。
しかしながら、自由で民主的な国で生きたい台湾人、ビジネスをしたい企業は積極的に受け入れ支援すべきです。それは、それは軍事紛争が起きる前から積極的に始めるべきです。歴史的に見ても東の果てに存する日本は多くのユーラシアの難民を受け入れてきたのです。それが日本発展の原動力でもありました。
ただし、ロシアの領土拡張に対するDNAは注意しなければなりません。もし日本が中国との戦争に巻き込まれれば、ロシアは北海道に確実に攻め込みます。歴史を忘れてはいけません。第二次大戦の武装解除後に大軍のロシア兵が北海道目掛けて攻め込んできた史実を忘れない様にしたいものです。
i. 原子力発電の原則廃止
エネルギーは経済性、安全性から選ばれるべきです。その点で、今の原発は危険であり、人の財産と生命を奪ってきました。災害は予測不可能な部分もあります。国土の狭い日本に原発が林立する姿は国防の観点からも脆弱です。今回の能登の震災も、かって珠洲に原発導入の政治圧力があり、地元住民が必死に「珠洲を殺さないでください」と猛烈に反対したのが記憶にあります。珠洲の原発が実現したらどの様になっていたのでしょうか。また志賀原発が再稼働していたらどうなっていたのか。安全性の基準から言うと、原発に頼るのはやめるべきです(将来に核融合原発の研究は継続すべき)。コスト面ではどうでしょうか。原発は多くのコストを国が税金で負担しています。この面を考慮すると決して安くはないのです。また、石油など炭素に由来するエネルギーは地球温暖化の原因です。地球温暖化は人類にとって殺生与奪の問題です。炭素由来のエネルギーの使用に際しては、使用を抑制するためにペナルティ(税金)が負荷されるべきでありそれを財源として再生可能エネルギーを進めるべきです。
j. 沖縄にアジア・アフリカ国際連合を創設
国際連合は機能不全です。アジア版NATOを作るのではなく、沖縄を世界平和の発信地として機能させるべきです。アジア・アフリカにおける21世紀の課題を解決するように互いに協力すべきです。日本が新しい解決提案の主導者となるべきです。
以上
2024年10月21日